第5回 賃金制度の考え方と適切な設計手法

はじめに
企業にとって「給与」は、社員のモチベーションや企業の成長に大きく関わる重要な要素です。
しかし、給与の決め方が不明確だと、「評価が曖昧」「給与の上がる基準が分からない」といった不満が生じ、組織の生産性低下につながることもあります。
賃金制度は、企業の状況や人事制度と連携しながら、社員が納得できる仕組みを構築することが重要です。
今回は、賃金制度の基本的な考え方と、適切な設計手法について解説します。
賃金制度の役割とは?

賃金制度は、社員の給与をどのように決定するのかを明確にする仕組みです。
主な役割は次の3つです。
目的 | 役割 |
---|---|
公平な処遇を実現する | 社員の貢献度に応じた適切な給与を決定する |
モチベーション向上 | 評価・成果に応じて給与を上げる仕組みを作る |
企業の業績と連動 | 企業の成長に合わせて給与体系を適切に調整する |
給与が適切に設定されていないと、優秀な人材が流出しやすくなり、組織の競争力が低下する可能性があります。
適切な賃金制度を設計し、長期的に運用できる仕組みを作ることが重要です。
賃金制度の種類と特徴

賃金制度には、以下のような種類があります。
賃金制度の種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
年功序列型 | 勤続年数に応じて給与が上がる | 長期雇用に向いている | 実力主義に合わず、不公平感が出ることも |
職能給制度 | 個人のスキル・能力に応じて給与を決定 | 成長を促進しやすい | 実際の成果とリンクしにくい |
職務給制度 | 担当する職務ごとに給与を決定 | 職務内容が明確になる | 職種ごとの給与差が大きくなりやすい |
役割給制度 | 役割や責任に応じて給与を決定 | 柔軟な人事制度に適応しやすい | 運用ルールを定めないと給与決定が曖昧になる |
どの賃金制度を選ぶべきか?

企業の規模や業種、成長フェーズによって適した賃金制度は異なります。
ただし、中小企業においては、「役割給制度」が最適と言われています。
「役割給制度」を導入するメリット
✅ 役割と給与を直接リンクさせるため、納得感が高い
✅ 同一労働同一賃金の考え方に対応しやすい
✅ 会社の業績や社員の貢献度に応じて柔軟な調整が可能
役割給制度は、社員がどの役割を担っているのかを明確にし、成果に応じた適正な給与を支給する仕組みです。
柔軟な給与体系を作りやすく、組織の成長にも対応しやすいというメリットがあります。
賃金制度の設計ステップ

① 賃金制度の目的を明確にする
賃金制度を設計する前に、企業がどのような目的で給与制度を導入するのかを明確にすることが重要です。
目的例:
- 社員の貢献度に応じた公平な処遇を実現する
- 企業の業績と給与を適切に連動させる
- 中長期的に運用できる給与体系を作る
② 賃金テーブル(給与水準)を設定する
給与水準は、等級制度と連動させながら設定します。
例:等級ごとの給与範囲
等級 | 役割 | 給与レンジ(万円) |
---|---|---|
L1 | 新人 | 20〜25万円 |
L2 | 中堅 | 25〜30万円 |
L3 | リーダー | 30〜40万円 |
L4 | マネージャー | 40〜50万円 |
給与範囲を明確にすることで、「何をすれば給与が上がるのか」が分かりやすくなり、社員の納得感も高まります。
③ 賃金制度と評価制度を連携させる
給与の決定基準が曖昧だと、社員のモチベーションが下がる要因になります。
そのため、評価制度と連携し、「給与がどのように決まるのか」を明確にすることが重要です。
評価と賃金の連携例
評価項目 | 反映先 |
---|---|
成果評価(業績達成度) | 賞与 |
スキル評価(業務遂行能力) | 給与・昇給 |
姿勢評価(行動・態度) | 給与・昇格 |
評価結果に応じて、「賞与」や「給与改定」に反映する仕組みを作ることで、適切なモチベーション維持が可能になります。
④ 「範囲給制度(レンジレート)」を活用する
給与の決定方法として、「範囲給制度(レンジレート)」を導入することで、より柔軟な給与調整が可能になります。
✅ 表にとらわれず、社員ごとに柔軟な評価ができる
✅ 業績に応じて給与の変動がしやすい
例えば、リーダークラス(L3)の給与範囲が30万円〜40万円だとすると、
同じL3でも、貢献度の高い社員は40万円に近づき、成長途上の社員は30万円台前半に位置するなど、柔軟な給与設定が可能です。
まとめ

- 賃金制度は「公平な処遇」「モチベーション向上」「企業の業績と連動」のために必要
- 「職能給」「職務給」「役割給」などの種類があり、中小企業には「役割給制度」が最適
- 評価制度と連携し、給与決定の基準を明確にすることで納得感を高める
- 「範囲給制度」を活用し、業績に応じた給与調整を可能にする
次回は「評価制度の仕組みと設計のポイント」について解説します!
投稿者プロフィール

- 社会保険労務士
- 社会保険労務士Office ALMAは、神奈川県横須賀市を拠点とし、処遇改善加算サポートをはじめとする医療機関や中小企業の労務管理を専門としています。特に労務相談対応、処遇改善加算サポート、行動分析学を用いた人事評価制度構築・運用を得意とし、事業主をトータルでサポートします。課題解決に伴走するパートナーとして、実務的で現実的な提案を行います。
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