第4回 成功する等級制度の選び方と導入ポイント

はじめに
人事制度の重要な要素の一つに、「等級制度」があります。
等級制度は、社員の役割や成長ステップを明確にし、キャリア形成を支援する仕組みです。
しかし、適切な制度を選ばなければ、形骸化してしまい、「何のために導入したのか分からない」「昇格の基準が曖昧で不満が出る」といった問題が生じます。
今回は、等級制度の種類とそれぞれの特徴を整理し、成功する等級制度の選び方と導入ポイントについて解説します。
等級制度の役割とは?

等級制度は、社員の役割や能力に応じてランク付けを行い、以下のような目的を達成するための仕組みです。
目的 | 役割 |
---|---|
社員の能力や役割を整理する | 会社の中でのポジションや成長段階を明確にする |
キャリアパスを示す | 社員が「次に目指すべき目標」を明確にできる |
給与・評価と連動する | 等級に応じた適正な処遇を実現する |
適切な等級制度を導入することで、社員のモチベーション向上や組織の成長につながります。
等級制度の種類と特徴

等級制度には、大きく分けて以下の3種類があります。
等級制度の種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
職能等級制度 | 社員の能力やスキルレベルに応じて等級を決める | 長期的な人材育成に向いている | 成果との連動が弱く、年功序列になりがち |
職務等級制度 | 担当する職務(ジョブ)ごとに等級を決める | 明確な職務ごとに給与設定できる | 柔軟な人事異動がしにくい |
役割等級制度(ミッショングレード) | 責任・役割の発揮度に応じて等級を決める | 現場で機能しやすく、中小企業に向いている | 役割定義を適切に設定しないと運用が難しい |
どの等級制度を選ぶべきか?

企業の成長フェーズや文化によって適した等級制度は異なりますが、**柔軟性が高く、運用しやすいのが「役割等級制度」**です。
「役割等級制度」を導入するメリット
✅ 中途採用者にも適用しやすい(職能等級だとスキル評価が難しくなる)
✅ 現在の貢献度を評価しやすい(職務等級は硬直化しやすい)
✅ 社員にキャリアの未来像を示しやすい
✅ 同一労働同一賃金の考え方に対応できる
役割等級制度の導入ステップ

① 目的の明確化
等級制度を導入する前に、「なぜ導入するのか?」を明確にすることが重要です。
目的例:
- 社員の成長の道筋を示し、人材育成を強化する
- 評価や給与の基準を明確にし、公平性を向上させる
- 同一労働同一賃金に対応し、法的リスクを減らす
② 社内の職種を分類する
役割等級制度では、職種ごとに等級を設定することが重要です。
部署ではなく、「実際の仕事内容単位」で分類しましょう。
職種の分類例(製造業の場合)
- 営業職(新規開拓・ルート営業)
- 事務職(経理・総務・人事)
- 技術職(製造・開発)
1つの会社にすべての職種があるわけではないので、自社に必要な職種だけを選定しましょう。
③ 等級の段階を決める
等級制度では、社員をいくつかの段階(グレード)に分けます。
一般的には、「新人 → 中堅 → リーダー → 管理職」のように設定しますが、企業によっては「専門職コース」も設けることがあります。
等級例(一般企業向け)
等級 | 社員のステージ | 役割 |
---|---|---|
L1 | 新人 | 指示のもとで業務をこなす |
L2 | 中堅 | 自主的に業務を遂行する |
L3 | リーダー | 部下の指導・業務改善 |
L4 | マネージャー | チームを統括し、業績を管理 |
④ 役割定義を作成する
等級制度を運用するためには、「この等級の社員はどんな仕事をするのか?」を明文化することが重要です。
例えば、営業職であれば
- L1(新人):上司の指示を受けながら営業活動を行う
- L2(中堅):自ら顧客を開拓し、受注まで対応する
- L3(リーダー):チームの目標達成に向けて指導を行う
- L4(マネージャー):部門の売上管理と戦略策定を担当
役割定義が不明確だと、評価や昇格の基準も曖昧になり、社員の不満につながるため、細かく設定することが重要です。
⑤ 等級ごとの給与テーブルを作成する
等級制度は賃金制度と連動するため、各等級の給与範囲(レンジ)を設定する必要があります。
例えば、「L1は月給20〜25万円、L2は25〜30万円」のように設定し、社員がどの等級にいるのかで給与を決定します。
この時、賃金制度と整合性が取れるように調整することが重要です。
まとめ

- 等級制度は「社員の役割を明確にする」ための仕組み
- 「職能等級」「職務等級」「役割等級」の3種類があり、中小企業には「役割等級制度」が最適
- 等級制度の導入には、「目的明確化 → 職種分類 → 等級設定 → 役割定義 → 賃金連携」が必要
- 明確なルールを作り、社員に理解してもらうことが成功のカギ
次回は「賃金制度の考え方と適切な設計手法」について解説します!
投稿者プロフィール

- 社会保険労務士
- 社会保険労務士Office ALMAは、神奈川県横須賀市を拠点とし、処遇改善加算サポートをはじめとする医療機関や中小企業の労務管理を専門としています。特に労務相談対応、処遇改善加算サポート、行動分析学を用いた人事評価制度構築・運用を得意とし、事業主をトータルでサポートします。課題解決に伴走するパートナーとして、実務的で現実的な提案を行います。
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